コラム「"つなぐ" "ささえる"の次に来るのは「生きざまを見てもらう」。自分自身が社会資源になる覚悟を持つこと。」

そうですね、ひと・くらしサポートネットちば(以下ひとくら)が立ち上がったのは、いまから3年半前くらいですかね。

ぼくとひとくらのお付き合いを思い出してみると、わりと立ち上がった最初から、よりそいホットラインのモデル事業がはじまったころ。

福祉の仕事をしている大先輩や、ぜんぜん馴染みのなかった弁護士さんなどいろんな人が集まっていて、『なんかこれからすごいことがはじまりそうだ』とワクワクしてました。


いまぼくは、主に障害のある人の相談をお受けする相談所で働いてます。固い名前で言うと「基幹相談支援センター」。生活の先が見えない人の「これからどうするか」を一緒に考える、いわば人生相談所ですね。

明らかに障害がなくても、不登校とか路上生活の人とか、障害のある人がいる、とされてる人たちともお付き合いしてます。


そんな相談所で働いてたら、たまによりそいホットラインのコーディネーターから相談者がつながっています。ひとくらがはじまったころはただ教わる立場だったのに、一緒に仕事ができるようになってなんだかほこらしい気分ですね。

 

"つなぐ""ささえる"の次を、ぼくら自身の手でつくる

さて、よりそいホットラインの電話番号にもなってる"つなぐ""ささえる"。

ぼくも相談所でつきあう人たちを"つなぐ""ささえる"仕事をしているつもりです。


自分がその人と関係を結んで"ささえ"、さらに他の関係機関にも"つないで"いく。それでうまくつながる人はいいんです。

でも、よりそいホットラインにSOSを出してくれる人は、いまある関係機関とうまくつながれなかった人ばかり。役所の窓口とかいろんなところに相談しても力になってもらえなかったり、人とコミュニケーションがうまくとれなかったり。


それをただつなごうとするのは、まるで、ブラック企業でうつ病になった人をまた同じ会社に戻すのと同じ。それで支援してるつもりだったら、なんともひどい話。

そこをどうするか、よりそいコーディネーターの方も日々工夫されているんだと思います。


実際ぼくも、うまくつながる先が見つけられない人とたくさん出会います。

ぼく自身ともいつ関係が切れるかわからない、実際に切れてしまった人も何人もいます。ぼくらの相談所がいらなくなっただけならいいんですが…。

 

相談の場面で自分をオープンにして「生きざまを見てもらう」

他に"つながる"先がないのであれば、その人とつながったぼくら自身がその先をつくればいいんだと、最近よく思います。

そのためには、どうすればいいか。うーん。


例えば、一対一で相談するときに、ぼくは自分の大変だった過去をよく引き合いに出します。

実は、ぼくは中学・高校とあんまり学校に行ってなくて。今でも人付き合いがそんなに得意じゃなかったりします。他にもいろいろありますが、いまこんなまともに仕事できてるのは、たまたま運がよかっただけ。そんな気がしてならないんです。


そんな自分の弱みをオープンにして話すことがけっこうあります。「ぼく、クラスに1秒でもいたくなかったら、高校は必修の授業だけ出てあとは保健室で寝てました」とか。

体験を教訓にするのはあんまりやりたくなくて、「生きづらさあるある」で盛り上がる感じというか、自分の「生きざまを見てもらう」感覚ですかね。たまに、相談に来た人にこっちから相談に乗ってもらったりもします(笑)


そうすると、単なる"相談所の人"から個人としての付き合いに近づいていきます。

孤立してホットラインに電話した人は、まさにそうした関係が不足している場合があります。元気づけられて、他に何もしなくてもその人自身の力で前に進んで行く人も。


そのためには、きちんと整理して相手に合わせたかたちで説明できるように、自分の弱みと向き合ってることが大事。解決してなくたっていいけど、ある程度客観視はできてたほうがいいですね。

「人に語れる生きづらさなんて、わたしにはない」と思いますか?でも、生きづらさを感じずに生きてきた人なんて、本当はいないはず。ささいな生きづらさでも、話してみたらいいんだと思いますよ。

 

つなぎ先を自分たちの手でつくる。

 

ひとくらにいるある先輩がこんなことを言ってました。

 

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行き場のない人がいたら、その人が入れる場をつくって肩を押してみればそれでなんとかなるもんだ。

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いやー、多分そうなんだと思いますが、問題はそんな場をだれがつくるか。相談でであった行き場のない人のための居場所を、だれがつくるかなんです。

そうです、目の前の行き場のない人のための場所は、出会ったぼくら自身がつくればいいんです。


「そんなこと言ったって、そんな場所なんてかんたんにつくれるわけがない」と思いますか?うんまあ、そうですよね。

別にイチからつくらなくたって、ちょっと工夫すればその人に合いそうな場が見つかったら、その場を運営してる人たちと協力してみるのもいいですね。


それに、試しにつくってみたら意外とかんたんにできるかもしれません。

例えば、行き場のない人に何人か出会ったら、その人たちの共通点をみつけて、それをテーマに集まれる場をつくればいいんです。


ぼくは相談所で高校を退学した若者と出会い、その人が行ける場所がないことに気づきました。ぼくの地域のフリースクール的なところは、10代後半の人が行きづらい雰囲気だったんです。そこで、相談所内に隔週で集まれる場をつくってみました。

そんな感じで、たった1人のために場をつくってみると、同じ思いをした人が集まるものみたい。

 

自分自身が"社会資源"になる覚悟

いろいろ話してきましたが、ぼくがひとくらから教わったことを一言で言うと、こういうこと。これもひとくらの先輩が言ってたことです。

 

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自分自身が社会資源になる覚悟を持て。

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相談の場で出会った人に自分の生きづらさをオープンにして、単なる相談者から個人の交流に近づけること。その人の行き場がなかったら、出会ったぼくら自身とその人でつくること。

そんな、自分が持ってるもの全部丸ごと社会資源にするような経験、やってみると楽しいですよ。机の上で助言だけしてる相談には、物足りなくてもう戻れません。


もしよければ、そのうちひとくらでお会いしましょう。

 

■執筆者:桑田久嗣(松戸市基幹相談支援センターCoCo 相談員)

 

1983年6月生まれ、双子座。熊本県出身の父と山形県出身の母の間に生まれ、千葉県にて育つ。

小学校は授業に座れず衝動的に窓ガラスを割る日々を過ごし、中学高校は半分くらい不登校でうつうつとした日々を過ごす。高校大学ではなぜか演劇部所属。

うつうつとした経験から精神科方面に興味を持ち、医療や心理だけでなく生活全般に携わりたいと思い、精神保健福祉士の資格を取れる大学に進学。卒業後は、精神障害者支援のNPO、精神科の病院を経て、2012年10月より松戸市基幹相談支援センターCoCoの相談員として勤務。

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