コラム「閉じないように。」

 相談の仕事をしていると、その人が一人で、家族のなかで、何とかしようと思ったけれども、どうにもならなくて相談しましたと言われることがあります。そんな時、相談してもらってよかったと思いますし、相談者もそう思えるように力を尽くそうと考えます。

 閉じてしまうと何かよくないことが起きます。それは個人でも、家族でも、組織でも、同様です。外側から見ていて様子が変だと感じたときに、外側の人たちが声をかけて、何らか問題が外に現れて解決に向かっていくことで、その人・家族・組織の健康が保たれます。自らを客観視することが難しいのはあたりまえのことで、問題を抱えたことでバランスを崩していれば自らを冷静にふりかえることはさらに困難になります。だから、声をかける・かけられる存在、関係がとても大切になるのです。

 

 でも、誰かがその人・家族・組織に声をかけても取り合わなかったり、問題を隠そうとしたらどうなるでしょう。多くの場合、問題はさらに深刻化し、その人・家族・組織の健康は損なわれていきます。いまこうしている瞬間にもどこかで起きている暴力や排除、組織の不正を思い起こしてみてください。閉じてしまった結果、何よりも大切なはずの命すら、大切にされなくなっていくのです。

 

 仲間と一緒に「ひとくら」を立ち上げた私の動機は、人の生活に関わる、生活を支える介護や福祉や法律の現場を閉じたものにしてはいけないと思ったからです。現場で働く人たちは、現場の仕事に懸命になればなるほど、視線が内に向かっていく危険にさらされます。蛸壺にはまり込んで、身動きが取れなくなることもあります。ひとくらに集まることで、日常業務をふりかえり、さまざまな仲間たちと出会うことができれば、蛸壺にはまっていた自分に気がつくかもしれません。アイデアやネットワークを持ち帰って現場の仕事を豊かにすることもできるでしょう。さらに言えば、介護や福祉や法律の仕事は、公共性のうえに成り立っています。介護や福祉や法律に関わる人たちが組織を超えて横につながりあうことで、自分たちの足元の「公共」を確かなものにしていくのではないかとも思うのです。

 

 閉じないように、つながっていきませんか。

■執筆者:朝比奈ミカ(中核地域生活支援センターがじゅまる センター長)


立教大学文学部卒業。社会福祉法人東京都社会福祉協議会に就職。
高齢者の就労・生活相談業務を経て、阪神大震災とその後のNPO法人制度創設、介護保険制度創設、社会福祉の基礎構造改革、障害者支援費制度導入等の激動期に福祉全般にわたる調査研究、広報啓発、研修企画業務等に携わる。
2004年から、千葉県が独自に設置した対象横断の総合相談事業「中核地域生活支援センター」の一つ、がじゅまるの創設に関わり、仲間とともに手探りで総合相談の実践に携わる。
そのノウハウで一般社団法人社会的包摂サポートセンターによる「よりそいホットライン」立ち上げに関わる。同事業運営委員。
2013年、千葉で法律家や福祉関係者のネットワーク組織、一般社団法人ひと・くらしサポートネットちばを立ち上げ。弁護士、宅老所の実践家とともに共同代表を務める。
2015年の生活困窮者自立支援法の施行に伴い、がじゅまるセンター長と市川市生活サポートセンターそら主任相談支援員を兼務。

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